施術室づくりのこだわり
おかげさまで自宅の治療室が手狭になり、おまけにお客様が見えるたびに犬たちが一生懸命歓迎の雄叫びをあげてしまう。
自宅であることで、お客様ご自身もトイレやお化粧直し等を遠慮されているご様子で、大変申し訳なく感じておりました。
道を挟んだ向かいの古い住宅を改装して、広くてお客様が自由に過ごせる治療空間を作った事例をご紹介させていただきます。
お時間のある方は読んでみてください。
目標は純和風のモダン
せっかく作るので、 “純和風のモダン”な仕上がりを、と目標を決めて現場のロケハン開始。
中に入って見ると、壁はボロボロ、床はぬけてる、トイレは臭い、台所はベトベト、洗面所は申し上げられません、さてどうしたものか。
親しくお付き合いさせて頂いてる、ペンキ屋さんと左官屋さんに相談してみました。
友人価格の見積もり金額なのに、私の懐にかなり厳しい。
これ「私に出来ないかな?」と更に相談してみる。
「ある程度の出来上がりで、自分が納得できるのなら、扱う材料にもよるが、何とかなるだろう」との事。
ペンキ屋さんは、私に出来る事とプロでなければ出来ない事を分けて、お願いする事にしました。
問題は左官、壁塗りです、希望は純和風、当然材料もしぼられてきます。
私が施工したい材料は、”漆喰(しっくい)”それを左官屋さんに告げると、
「バカぁ~おめぇにそんなもん出来るわけねえだろう」大怒鳴りである。
それでも私の熱意にあきれた様子で、「じゃぁ俺が材料をねってやる、そして、急所(要注意事項)と段取りを、じっくり説明してやる」と、神のお言葉をいただきました!
事前に「ここまではやっておけよ」と、伺っておいた下段取りを終え、5月吉日左官講習会を開催して頂きました。
はじめて触れる材料の”しっくい” 私に扱いやすいように、硬めにねって頂いたのだが、ヌルヌル、ベタベタで話にならない。
不安が過ぎる。
コテ板(材料を乗せる板)の上に材料の”しっくい”をのせる、それをコテにのせる(コテがえし)のだが、のらない。
100回やってものらない、「それがのらなきゃ、壁に塗るどころじゃね~ぞ」当たり前の事を言われる。
見るに見かねて左官屋さんが、コツを伝授してくださいました。
そして30分後「のった~」ここで実に2時間の猛特訓!
「じゃ壁に塗れ」…えっ?「えっ、じゃねえよ壁に塗れ、塗らなきゃ始まんねえだろう」…この状態で?ボっボクがですか?
私は、この時以前出して頂いた見積もり金額が頭に浮かびました、やはりプロにやってもらった方が良いかな…。
かなり弱気になってしまった。
後で聞いた話ですが、最近の若い左官屋さんは”しっくい”など難しくて塗れない職人さんもいるそうで、改めて自分の図々しさ、身の程知らずさ、に申し訳なく思いました。
壁がぐちゃぐちゃになってゆく、材料がコテの表側にべっちゃり、壁以外の柱にべっちゃり、あっちこっちべっちゃり、この壁、修復不可能!
すると、左官屋さんがコテを持つ、ぐちゃぐちゃになった壁の材料(しっくい)をのばす、隅々が決まる、早い、背の高い職人さんなのでリーチが長く、可憐な”舞”を舞っているように見える、約2分で修復完了!
更に更に弱気になる私へ、
「ほら、ボサッとしてねえで次の壁塗れ」。
こうなりゃ”一か八か” 見た通りに真似るつもりでいくしかない。
「腕の力が弱いコテをしっかり持て」
「塗る時に、息を止めろ」
「下から上に材料を壁に置くように塗りつけろ」
「壁に材料を置かなければ、のばせねえだろう」
「コテの持ち方が悪くなった」
「汚した所の掃除は後回し」
「厚くなった所をのばせ」
『コテの角度が悪い」
私は、左官屋の弟子ではないのですが、おそらく弟子以上にたくさんの指示を下さったと思います。
15時の休憩、さっきまでの弱気が吹き飛んでいる自分がいる、おもしろい、早く塗りたい。
“しっくい”は2度塗りをして仕上げる
1度目が微妙に乾いた頃合いを見極めて、2度目に仕上げる。
1度目に厚すぎる所や、薄すぎる所があってはならない。
コテを下から上へ材料を壁に置くように塗りつける、左側の隅を決める、そして右手方向へのばして行く。
右側の隅で手が止まる、やり方がわからない、とそれを見ていた左官屋さんが「まず新しい材料を壁に置け、その材料をコテの右側でひったくるように取れ、「コテの右側に材料がのったか?」のった!「それを右隅に塗りつけろ」。
お~お~当然へたくそだが、理屈がよ~く解かった。
更に30分、「なんだか、分かってきた見てえだな」、私の行動と態度で心までお見通しのご様子。
16時30分”仕上げのコツ”を伝授される、仕上がりは悪いが理屈と段取りがほぼ理解できた気がする。
この人説明と指導がすごく上手、弟子が居たら良い職人さんになるだろうな”希少なプロ”です。
私がまだ壁にしがみついている間に、さっさと掃除を済ませ、17時にお帰りになられました。
「わからねえ事は電話しろよ~」、粋ですね!
この日は腕がパンパンになってしまったため私も早めに仕舞いました。
晩酌をしながらコテ板とコテを握り塗りのイメージを続けてました、明日が楽しみだ。
言われた通りにする、材料の按排、水の位置、壁と脚立の距離、照明の角度、柱を汚したときの水はけの段取り。
いざ、2度塗りのタイミングの判断を考えて、無理なく小さい釣り壁2枚に集中する。
下から上に塗る、のばす、職人の背中・腕の運びを思い浮かべ元気にのばす、厚い所、うすい所に注意して、あまりべちゃべちゃいじらない。
「こんなもんかなぁ」、時間をおいて2度目を塗る、少し厚くなってしまったが、自分の中で納得のいく仕上がり、これでいい、これくらい出来れば上等、本気で思えた。
昨日の弱気が嘘のようだけど、今思えば気の迷いが悔しい。
家内が様子を見に来る、驚いた声で「あんたほんとに器用だね」、へっへっ!
翌日ペンキ屋さんが、自分の作業の段取りに見えた。
私が塗った室内の柱、なげしの様子と、壁を見て「自分で塗ったのか?」と疑いかかる。
職人さんに褒められてしまった。
いい年の親父が褒められて伸びる?俄然やる気満々!
“しっくい”を塗る左官講習会の前に、壁の修正材料や補強用のノリを塗る下段取りに、かなり時間を要しました。
その間自分なりにイメージすると、黒く塗りたい柱やなげしの方が、白い”しっくい”より先であろうと判断しました。
職人さんも賛成してくれて、ペンキの段取りを先に始めたのです。
材料の見極めで候補に挙がったのが、<ステイン材>木部にしみ込む素材で、補強効果と何より木目が生かせます!
しかし、ペンキ屋さんに指示された製品は油性のため、後にシンナーの匂いが残る事が気がかりでした。
水性が無い物かとホームセンターで相談してみると、材料の存在は確認できたが当店では扱っていないとの事。
更に調べてもらうと、鴨川店に置いてある事がわかった、か・も・が・わ~?
釣り大好きな私が釣りなんぞを我慢して左官屋とペンキ屋を頑張っているのに、なぜ青い海を見せる?
鴨川店往復4時間、材料が無いのでは始まらない、何かに取り付かれたかのように青い海を後にする。
材料が手に入った、水性のため実に塗りやすい!
ヒノキの香りがブレンドされていてとても良い匂い、完成してからが楽しみだ。
淡々と作業を進める私に、救いの神?が降臨してきた、気がした。
突然「希望に満ちた事態の側面を見よ」と、私の大好きな言葉が脳の後ろ辺りで活字になって表れた気がした。
何故、今?
「後ろだ、後ろを見ろ」と言われたような…
そこそこ部屋数のある古民家で、夕方ひとりで作業しているのだから”恐い感じ”はやめていただきたい!
しかし私はこの言葉で何度も一大事になる要因を凌いで生きてきたため、言われた通りに後ろを振り返る。
すると「あ~っ、あ~~」すごい液ダレ~。
横シマの木目に縦のシミ~、最悪です。
修正できるか!まだ乾いていなければ何とかなる、間に合った!
いそいでハケで横にのばす、電話がかかって来る、相手にしていられない、焦る!
「ふ~、またこの言葉に助けられた」最近では不思議さを感じないようになってしまった。
材料の癖を知る!とても大切です、もはや職人の領域にいるような自分。
後にこの工程ではトラブル無く進められました。
黒く塗って見ると見えなかった柱のキズなどが、浮き上がってきた、以前住んでいた子供たちの悪戯です。
あまりおかしい物はヤスリ等で修正しましたが、それなりに味わいがあって嫌な気がしない、古い民家だもの。
さて、次なる強敵はアプローチと廊下のフローリングだ、これは手順さえわからない。
しかしここまで自分で作ったのだから、今更プロに頼む気がしない。
ネットやホームセンターで作り方を調べる、理屈は分かったけれど思い通りになるのだろうか。
悩んでいるのも面倒なので、フローリングの材料を買ってきてしまった、もうやるしかない。
難しそうな細部は後回し、まず全形を進めていく。
思いのほか順調、何と半日で全体の8割程の作業が仕上がっていった。
なにか恐れるものが無くなって行く気がする。
問題の細部は一度にやろうとせず、良い案が思いつくたびに進めていきました。
襖、障子、カーテン、台所の掃除、家内と娘の協力もあって3ヶ月かかった工事が無事終了し、予定のオープンに間に合いました。
看板、行灯、すべて何から何まで手作りの純和風、自称モダンの完成です。
たくさんの人達の言添えと情報、技術で乗り越えられました、本当にありがとうございました。